奇跡!という言葉が目に飛び込んできて選んだ一冊。この「『奇跡』は準備されている 何が日本のフェンシングを変えたのか!」を読み終えました。著者は、日本のナショナルチームの統括コーチ(フルーレ種目)であるオレグ・マツェイチュク氏。

フェンシング選手としての現役を終え、軍付属のスクールで子どもたちにフェンシングを教えていたウクライナ人のマツェイチュク氏。指導者として第二のキャリアを築くためのチャンスを模索中、日本のフェンシング協会から声をかけられ「日本ナショナルチーム・男女フルーレ統括コーチ」に就任することとなったものの、日本に関して知っていることといえばスシ・カラテ・ニンジャ程度(苦笑)。日本語はおろか英語にも不自由する著者が、現役時代に国際大会で活躍する日本選手というものを見た記憶がない...そもそも日本人ってフェンシングするんだっけ?と首をかしげながらも、妻子をウクライナにおいて単身来日することを決断します。

2008年の北京オリンピックで太田雄貴選手が銀メダルを獲得してからでこそ注目されるようになったフェンシングですが、当時の日本ではまだまだアマチュア競技のフェンシング。ナショナルチームのメンバーといえども生計を立てるために職業を持ちながら並行して競技生活を送る選手ばかり。練習にあてられる時間の少なさ、選手たちの勝負に対する意識の低さなど、地元ウクライナでは経験したことのない壁が著者の前に立ちはだかります。

日本に馴染みがあまりない国から来たコーチが、日本を、日本人選手をどういった目で観察し、どういうアプローチで関係を築きながらナショナルチームのレベルの底上げを図ってゆくか。外国人が仕事のために日本にきてぶつかる壁。言葉や文化の違い。それらをどう捉え、どう乗り越えてゆくか。素朴ながらも実直な著者の言葉に引っ張られるように読み進めてゆくと、そこには逆境にくじけず周りの人、環境、そして勝利を自分に引き寄せてゆく力強さを見せられます。

言葉の通じない国に単身やってきたマツェイチュク氏が記すコーチとしてのキャリアストーリーと、世界トップレベルの息を呑む勝負の瞬間の一部始終。この本を読みながら、これまで見たことのないフェンシングの試合を一度は見てみたいという思いが浮かびました。きっとそこには熱い戦いを見せる選手と、その陰にはマツェイチュク氏のようなコーチの熱い指導と思いがあるのでしょう。