夏休みのプランを立てる時やサマースクールの選択肢を探る時、私は「卓球の福原愛ちゃんのイメージ」を頭の中に持ちながら計画するようにしています。卓球の愛ちゃんって、卓球が強い上に中国語も堪能ですよね。競技生活の忙しい彼女がどうやってあのレベルの語学力を身につけたのか、関心を持って調べてみたことがあります。(競技実績についてはあまり深く調べてませんが)語学習得の背景として、愛ちゃんは幼い頃から、日本に住んでいる中国人の方に卓球のコーチをしてもらっていたり、1年のうち1ヶ月?だか、ある程度の期間を中国で過ごし現地で卓球の訓練を受けていたそうです。小さいうちから現地のメディアからインタビューを受けたりしている映像もあったりします。彼女は卓球というコアスキルを身につけ世界レベルまで高める「プロセスの中で」中国語というサブスキルを習得していったんですよね。しかも子どもの頃からちょっとやそっとのレベルでなく、相当流暢な中国語を、です。
この「コアスキルを磨くプロセスの中で、もう一つの言語(ここで言う”サブスキル”)を習得してゆく」というやり方から学ぶところがあるなあ、という気がしていて、私も是非見習いたいと言う思いがあります。もちろんコアスキルにしてもサブスキルにしても、愛ちゃんほどのレベルに達することはとても難しいとは思いますが、イメージだけでも応用できないか、という思いを抱きながら、子ども達のサマースクールを選ぶときのヒントにしています。卓球と語学(中国語)という一見全く関係ないように思えるスキルだけれど、実は密接に結びついていて(中国は長い間卓球の強豪国であり、当然ながら優秀なコーチ陣が中国出身者である確率は高いわけで...という観点で)両者のスキルが同時に向上するという非常に効率の良い環境であったことに注目したいのです。「プロセスの中で」と強調したのは、愛ちゃんは決して「卓球を休んで語学留学しに行ったりは、しなかっただろう」と思うからです。卓球を学びながら、中国人コーチに中国語で教わり、中国へ卓球留学(語学のみを学ぶ目的の語学留学ではない)して、中国へ試合で遠征に出向き、現地のたくさんの人と関わることによって中国語を使い飛躍的な語学スキル上達を早い段階で実現したと私は推察しています。
このイメージから派生して、我が家では数年前、子どもをヨーロッパでジュニアオーケストラのサマーキャンプに参加させたことがあります。日本の留学エージェントが出入りしていない、ある国の田舎町のローカルの子ども達しか参加しないようなジュニアオケです。日本語はおろか英語が話せる人もほとんどいないようなプログラムを意図的に選びました。当時彼のその言語の能力と言えば、赤ちゃんがヨチヨチ歩きを始めた程度のレベルだったのですが「コアスキルは楽器の練習と合奏スキルの習得」だったので手持ち無沙汰になったりすることもなく、自然な形で現地のお子さん達に溶け込ませてもらうことができました。いきなり日本からやってきた小さな男の子、として初めはびっくりされましたが一緒に楽器を弾いているうちに仲間に入れてもらって可愛がってもらいました。
ジュアオケの良さは、同じ楽器を弾く子達のまとまり(小グループ)と、オケ全体の一体感(大グループ)の両方の良さを味わえる点です。小グループの中ではグループのトップ(要は、その楽器の教授)の指導や指示を受けるクラスがあります。仮に言語能力が劣っていても、教授が自ら弾いて手本を示してくれたり、何とかなるものです。楽譜をシェアしているお隣の生徒さんから助け舟を出してもらったり、とコミュニケーションのとり方も学びました。特にその小グループの中では、ロールモデルとなるような先輩奏者(息子から見たら、自分と同じ楽器をすごく上手に弾く大きなお兄さん達)から優しくしてもらったりする触れ合いも嬉しい体験だったように思います。
大グループでは、当然オケ全体の広がる仲間意識や、普段見たことも無いような珍しい楽器を弾く先輩達にも囲まれて一体感を感じることができました。楽器というコアスキルを学ぶプロセスの中でその国の言語にも触れられ活用できる環境は、普段東京で生活している我が家にとって貴重なものです。当時の彼の年齢を考えると、よく1人で冒険したものだな、と思いますし、成功体験・失敗体験のどちらからも多くのことを学んだ気がします。
コアスキル(このケースでいうと楽器)は、練習・レッスン・合奏合わせとして毎日何時間も弾いているのでさすがに少しは上達して帰ってきました。何より一緒に弾く楽しさを十分に味わって来ることができました。また、サブスキル(その国の言語)の方は驚異的なリスニング力の向上が見られました。寮生活の中で何週間も過ごすうちに色々な語彙を覚えてきました。本人が話している様子を聞くとまだまだ時制がごちゃごちゃだったり間違えだらけで赤ちゃんぽい話し方をしていますが、自分が言われたこと、指揮者から全体に出された指示の内容、練習時間や場所などのお知らせなどきっちり聞いて理解できるようになりました。習得したスキルの中で最も有益だったものは、お知らせや指示・指導が(全員に対して)与えられたあと、自分から「この部分だけはわからなかったから、もう一度教えて下さい。」とか「自分はこう理解したのだけれど、理由がわからなかったから教えて下さい。」と質問しに行き、理解できなかった点を解決できるまで食い下がって質問や交渉ができるようになったことです。黙って頷いて静かにしているのではなく、自ら話し手のところに行って自分から発信し会話を持つ、というのはその国のコミュニケーションの方法として非常に自然であり、子どもであっても誰もがしていることなので、現地では出来て当たり前なことです。こうしたソフトスキルを得る経験にもなって冒険させた甲斐があって良かったなあと今でも思います。
子どもの年齢が上がるにつれ、この子と一緒に夏休みを過ごせるのはあと何回残っているかな...。なんて思ったりすることもあります。大学受験間近になれば、否が応でもアカデミック領域に勢力を注ぐ過ごし方をしなくてはならないでしょうし、残された夏はもうたくさんは無いのかもしれない。なんてちょっと感傷的になったりすることは正直あります。だからこそ「愛ちゃん式」プランを作ることがますます必要になってくるのかも... つまり「学びたいスキルを"学びたい言語"を使う環境の中で学ぶ」というのが我が家の夏休みの過ごし方のコンセプトになっています。
すでに来年の夏休みのプラン作りのリサーチを始めたところです。オリンピックがあるからチケットを早くおさえなきゃね。