ワケあって「ギフテッド」教育に関心があります。今日は久々の投稿ですけれど、神童と言われたバイオリニスト渡辺茂夫氏のドキュメンタリーを紹介したいと思います。天才バイオリニストの華々しい成功ストーリーではなく、実際には茂夫氏とその父(養父であり実際には伯父の関係)季彦氏の虚しい人生のドキュメンタリーです。40分弱というちょっと長い動画ですが、心の奥に届く内容だと思います。
バイオリン教師である父(その奥さんもまたバイオリニスト)から才能を見出された茂夫氏。幼少期から演奏会で人々を感嘆させ注目を集めてきた彼は、当時「100年に1人の大天才」と呼ばれた世界的バイオリニスト・ハイフェッツの熱心な勧めによって世界最高峰の音楽学校ジュリアード音楽院に学費免除で入学することに。14歳で単身渡米。
厳格で名高いイワン・ガラミアン教授に師事するようになった茂夫氏。ガラミアン校においても持ち前の演奏技術で誰からも認められるトップレベルの生徒となったものの、それまでに既に完成されていたとされる自身の奏法(弓の構え方の手法など)を同教授によって否定され一新させられるような指導を受けたことから次第に違和感を覚えるようになる。異国での孤独な生活、疎外感...。少しずつ心の病を患うようになり周囲に自殺願望を口にするようになる。
薬物の大量摂取による自殺を試みた時、彼はまだ16歳。一命は取り留めたものの重度の脳障害を抱え、のちに帰国。その後58歳で亡くなるまでのおよそ40年の間、養父季彦氏の手によって介護を受けながら生活。バイオリンを再び手にすることはなかった、という映画のように悲しいストーリーです。
幼少の茂夫氏の才能を見出し指導した養父季彦氏は、最後まで息子が自殺を図ったことを認めることはありませんでした。重い脳障害でベッドに横たわったまま帰国した我が子を、室内で少し歩けるようになるまでリハビリして支え続けた40年もの日々。これは季彦氏の執念だったのでしょうか。
(「天才バイオリニスト 神童・渡辺茂夫『よみがえる調べ 天才バイオリニスト 渡辺茂夫の半生を追う』20世紀のモーツァルト 1996年放送 スペースJ」Youtubeから引用)
我が子に夢を託す親の気持ち、それに応えようとする無垢な子ども。天才と呼ばれるほど飛び抜けた能力を生まれ持った子どもの中には、その能力との付き合い方が上手く分からず苦悩の人生を送る者もいるのでしょうね。ちなみにお話の中に出てきた茂夫氏渡米中のバイオリン教師イワン・ガラミアンは、かつてこのブログでお勧めした書物「天才を育てる 名ヴァイオリン教師ドロシー・ディレイの素顔」にも登場した世界的権威の人物です。「天才を育てる」って、世界有数のバイオリン教師にとっても本当に繊細なものなのだなあ。と心に深く沁みました。
「天才を育てる 名ヴァイオリン教師ドロシー・ディレイの素顔」
バーバラ・ローリー サンド著